見果てぬ夢、核融合発電


先日(7/29) ITER の融合炉の組立が始まったとのニュースがあった。

NHK の報道によれば、ITERは2025年に運転を始めるまで2兆5000億円(日本負担分は2900億円)の費用が掛る。ちなみにこれは当初予定より5年遅れ、予算は3倍に膨れている。果たして核融合発電は実用化できるのであろうか。

 

1.核融合とは何か

  核融合とは軽い核種が融合して重い核種になることである。
  核融合反応には沢山の種類があるが、この名で最も達成条件の低いD-T反応核融合発電の目標である。D-T反応重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)が反応して
ヘリウムと中性子が発生する。この時発生するエネルギーの七割を中性子が担う。

  ちなみに太陽の核融合の大半は陽子-陽子連鎖反応とCNOサイクルなので、核融合発電は「地上の太陽」というより「制御された中性子爆弾」と言うべきだろう。

 

2.燃料は無尽蔵か?


  重水素はまあよいとしても、半減期12.32年のトリチウムは自然界に殆ど存在しない。人工的に作成する必要がある。ウィキペディアによれば、カナダ・オンタリオ州の重水炉では年間2.5kgを製造販売している。100MWの発電所には年間130kgのトリチウムが必要となる。
  トリチウムの製造には核融合炉の炉心にリチウム装着して回収することを予定しているが、消費した以上に回収することはできないだろう。結局のところ融合炉のためには分裂炉が必要となる。
  ちなみにグラムあたり300万円で燃料単価を計算すると1kWhあたり45円となり
現行のどの発電方式の発電単価より高くなる。核融合発電の実用化のためには現行の製造方式を改良して安価に大量に製造する必要がある。
  そして製造、運搬、運転の全てにおいて環境に放出しないようにする必要がある。さらに言えばトリチウム核兵器の材料であるため、核ジャックの危険にも備えなければならない。


3.核融合炉はクリーンか?


  クリーンな発電方式とよく言われるのだが、これがよくわからない。そもそも燃料のトリチウム放射性物質なのに何故クリーンと言えるのか。ガス状のトリチウムを封じ込めるのは困難であろう。

  またD-T反応で発生する中性子は炉を放射化する。最終的に融合炉は放射性廃棄物となる。中性子を浴び高熱に晒される炉壁や装置は定期的な交換が予定されているが、
はたして経済的に成り立つのだろうか。


4.核融合炉の安全性


  最後に安全性であるが、福島原発のような爆発はたしかに起きない。しかし全てのプラントは事故の可能性がありそれは核融合炉も例外ではない。
  事故の中で一番厄介なのは火災であろう。実際に発電を行なう場合冷却材は金属リチウムが想定される。金属リチウムは反応性の高いアルカリ金属で火事になっても水で消化できない。
  また磁気閉じ込め方式の場合、超伝導状態の喪失やディスラプション(プラズマが制御を失なう)事象が有り得る。その他も地震等の自然災害による損傷も考えられる。いずれの事故もトリチウムの大量放出に繋がる可能性があるのだ。

 

  1950年代の国際会議で10年以内の実用化を豪語して軽く半世紀を越えるのだが、
前世紀から指摘されている数々の問題点は一向に解決していない。
いまだ実現の可能性が見えないのが核融合発電の現状である。



核融合発電」で検索するとヨイショするページばかり引っ掛かるのだが、
批判的なページもそれなりにある。以下に紹介する。

https://dr-seton.hatenablog.com/entry/20110514/1305359304
https://dr-seton.hatenablog.com/entry/20110515/1305462221
https://honz.jp/articles/-/40327
https://cnic.jp/150
https://www.gasho.net/stop-iter/documents/q&a/q&a.htm
https://alter.gr.jp/magazine/detail.php?id=2530
https://www.env01.net/main_subjects/energy/contents/hankaku/hankaku_39.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/57/5/57_5_342/_pdf
http://masaniwa.web.fc2.com/D-50.pdf
https://koubeinoko.exblog.jp/22995878/
https://zassou322006.blog.fc2.com/blog-entry-855.html
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-11-17/01_05f.html