ラムザイヤーとおサキさん

 産経新聞が報じたのが切っ掛けで世界的に有名になんたラムザイヤーの慰安婦論文であるが、現在数多の学者からの総攻撃に会っている

その中のツッコミの一つに次のものがある。

エミコヤマ@emigrl
10歳の少女が300円もらえると言われて売春が(というかセックス自体)何なのかも理解しないままボルネオに送られた例をラムザイヤーは日本における売春動員の「正当な契約の一例」として挙げているんですから、「児童買春を擁護した」というのは妥当な評価だと思いますけど。

https://twitter.com/emigrl/status/1366317625681186818

これは山崎朋子の「サンダカン八番娼館」に書かれているおサキという女性の話である。
このツッコミに対する反論としては以下のものがある。

1. デイリー新潮の有馬哲夫の記事

https://www.dailyshincho.jp/article/2021/03170558/

(4)「10歳の少女」の契約を合法的なものだと主張している

 これもソク教授の悪質なストローマン論法である。

 ラムザイヤー教授は論文で「10歳の日本の少女」の事例を挙げて、契約が自発的であり合法的に行われたと主張した――こうソク教授は述べている。

 つまり、そんな酷い児童買春をラムザイヤー教授は肯定している、許せないことだ、というのがソク教授(や「記事」を書いた側)の言いたいことなのである。

(中略)

 彼は児童買春を肯定してなどいない。実際にあったケースを分析しているだけだ。「慰安婦被害者」を愚弄もしていない。ただ一次資料に基づいて「性契約」の実態を明らかにしているだけだ。

2.歴史認識問題研究会 西岡 力

http://harc.tokyo/?p=1921

 また、声明は結論部分で、論文に対して「10歳の少女が性労働者として働くことに同意できると主張する論文」と決めつけた。

(中略)

 当時の日本で女性の人権が守られていなかったことは事実だ。現在の価値観では当然、10歳の少女と売春婦になる契約を結ぶこと自体倫理に反するだろう。論文はそのような価値判断をしているのではなく、明治期の日本でそのような少女の人権侵害があったという事実を書いているだけだ。

 学者が事実を論文に書くことが「倫理に反する」「残虐行為を正当化」だとする声明の批判は、事実記述と価値判断を混同した的外れの批判だ。

3.論文の主張

 では、実際には何と書かれているのでしょうか。論文は以下の場所から見ることができます。
https://news.yahoo.co.jp/byline/takeuchikan/20210225-00224442/

 論文の主張は、「殆どの女性たち(公娼、私娼、慰安婦)は自分たちがどのような仕事をすることになるのか、正確に理解したうえで、自分の意思で業者と契約交渉をした」というものです。

契約自体は、ゲーム理論の基本原則である「信頼できる約束」に従ったものであった。
(The contracts themselves followed basic game theoretic principles of credible commitments.)

と述べられてます。問題のおサキについては

おサキは、確かに長年海外で働いていたが、父からの抑圧や性奴隷の話ではなかった。
Osaki had indeed worked many years abroad, but hers was not a story either of paternal oppression or of sexual slavery.

と書かれていて、例外扱いはしていません。「児童買春を擁護している」というツッコミは妥当でしょう。

 サンダカン八番娼館によればおサキは明治30年頃の生まれ、始めて客を取らされたときの状況は次のようなものです。

 うちらが客ば取らされたとは、二、三年たって、うちが十三になった年じゃった。忘れもせん、ある日昼飯の済んだとき、太郎造どんがうちら三人に向こうて、「おまえら、今晩から、おフミらのごと客ば取れ」と言い渡したと。ツギヨさんもおハナさんも、「お客なんか取らん。なんぼ言うても取らん。」と言い張った。すると太郎造どんがな、みるみる恐しか鬼のごたる面になって、「客ば取らんで何のためにここまで来たっか?」と責められ立てたとじゃ。うちらは三人かたまって、口ばそろえて、「小まんかときは何の仕事と言わんで連れて来て、今になって客ば取れ言うて、親方の嘘つき!」と言い返したと。

----ばってん、親方はびくともせん。今度は捕えた鼠ばねぶる猫ごたる調子でな、「おまえらのからだにゃ、二千円もの銭がかかっとる。二千円返すなら客ば取らんでもよか。さあ、二千円の銭ば、今すぐ返せ、さあ返せ、返すことが出来んならば、おとなしゅう、今夜から客ば取れ」と言うとじゃ。一銭の銭も持たんうちらに、二千円の銭ば返せるわけがなかろうが! そっで、とうとううちらは負けてしもうて、嫌じゃ嫌じ思いながら、その晩から客ば取らされてしもうたと。

このすぐ後には生理の出血が一月止まらなかったが、それでも客を取らされた話も出てきます。

 ラムザイヤー教授を擁護しようかと考えている人は、一度論文を読むことをお勧めします。
翻訳サイトを使えばさほど難しいことではありません。(私は DeepL を使用した)



なお論文についての考察として以下の二つも参考になります。

ラムザイヤー教授の「従軍慰安婦」の論文の主張ってどんな内容なの?
https://note.com/horishinb/n/n496b4589af3b

ラムザイヤー論文の要約によると、高額な前払金は慰安婦側が常に優位な交渉をした証拠という主張らしくて、さすがに目を疑っている
https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20210309/1615299767