12万年ぶりの猛暑

連日暑い日が続く中、皆様いかがお過しでしょうか。
ニュースによれば、 今年2023年は12万年ぶりの猛暑、つまり人類史上最も暑い夏であります。

さて、たまたま旧い文章を見ていたら、ロンボルグについて記述してたの見つけた。
ビョルン・ロンボルグは「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」という本を書いている。(日本語版の発売は2003年)
当時結構話題になった本である。 彼はまた「地球と一緒に頭も冷やせ!」という本も書いている。(日本語版の発売は2008年)
訳者の山形浩生氏の解説もある。

今回は「地球と一緒に頭も冷やせ!」という本を読んで気付いた事などを語る。

 

この本の第一章はシロクマの話である。 ここでロンボルグはシロクマ絶滅の可能性を否定する。 注33)でThe Arctic Climate Impact Assessmentから 「かれらが進化してきたヒグマと似たような陸地主体の 夏のライフスタイルを採用するようになる」 を引用し、彼らはヒグマやグリズリーとの混血の「脅威」 について語っているとロンボルグは書いている。

しかしこのレポートではロンボルグの引用した文章の すぐ前に「シロクマが種として生き残ることは、夏の海氷面積がほぼ完全に失われれば、まず不可能である。」という文章がある。 レポートは運良くシロクマが夏の陸上生活に 適応出来た場合に混血の「脅威」が有ると述べているに過ぎない。

種の存続にとって乱獲は脅威だが、生息領域が無くなることは致命的である。

この章だけで、この本をぶん投げてもいいかも。 こういう引用をする論者とはまともな議論はできないでしょう。

 


第二章でロンボルグはノードハウスの動的統合気候経済モデル(DICE)というのを紹介している。DICEに は割引率(今よりも所得が高いと思われる将来世代の負担率)
の設定、CO2排出がもたらす損害の測定、そして確立は低いが大きな損害をもたらす破局的事象をどのように考慮するかという課題がある。

しかしながら DICE やその派生モデルは政策論議に使われる重要なモデルである。

ノードハウスの1992年の論文では2015年のCO2、1トンの社会的費用は4.54ドルとされた。その後モデルに改良を加え、2015年に31ドルに引き上げた。

ロンボルグは DICE を紹介しなから4.54ドルという数字を示していない。
社会的費用は2ドルという主張に都合が悪いからだろうか。

 


ロンボルグの描く温暖化した未来はとても明るい。
ロンボルグは3点ほど温暖化の利点を挙げている。

1. 熱波の死者は増えるが、寒波の死者はその何倍も減少する。
これは本当

2. 水資源の増加
IPCCの予測では雨量は高緯度で増加、亜熱帯で(最大20%)減少する。地域差が大きいのだ。
それでもトータルで水ストレスの人口を減らすとロンボルグは主張するのだが、干魃にみまわれた人が納得するかな。
温暖化の進行で洪水と干魃の増加が予想されるが、これらに対して適切な支援が行われるかは疑わしい。


3. 農作物の収量が増大する。
ロンボルグは随分と楽観視しているが、IPCCの予測は3度を越えて上昇すれば減少すると予測している。また全体的に上昇する場合でも多くの地域が悪影響を受ける。

 


CO2の増加を止めた後も、海面の上昇は数世紀続く。
ロンボルグが無視する破局的事象の可能性も少なくない。
地球温暖化の影響は時間的にも空間的にも広範囲に及ぶ。
決っして安易な費用便益分析で矮小化できるものではない。

 

早ければ2025年、遅くとも今世紀中には大西洋の海洋循環が止まる というニュースも入ってきている。
どうか2023年が人類史上最も暑い夏でありますように。
(2023.8.29)

 

参考リンク
ビョルン・ロンボルグ著 『環境危機をあおってはいけない』 The skeptical environmentalistに関する幾つかのコメント 奥修

温暖化懐疑論に向かいあう

地球温暖化懐疑論批判

 

ラムザイヤーとおサキさん

 産経新聞が報じたのが切っ掛けで世界的に有名になんたラムザイヤーの慰安婦論文であるが、現在数多の学者からの総攻撃に会っている

その中のツッコミの一つに次のものがある。

エミコヤマ@emigrl
10歳の少女が300円もらえると言われて売春が(というかセックス自体)何なのかも理解しないままボルネオに送られた例をラムザイヤーは日本における売春動員の「正当な契約の一例」として挙げているんですから、「児童買春を擁護した」というのは妥当な評価だと思いますけど。

https://twitter.com/emigrl/status/1366317625681186818

これは山崎朋子の「サンダカン八番娼館」に書かれているおサキという女性の話である。
このツッコミに対する反論としては以下のものがある。

1. デイリー新潮の有馬哲夫の記事

https://www.dailyshincho.jp/article/2021/03170558/

(4)「10歳の少女」の契約を合法的なものだと主張している

 これもソク教授の悪質なストローマン論法である。

 ラムザイヤー教授は論文で「10歳の日本の少女」の事例を挙げて、契約が自発的であり合法的に行われたと主張した――こうソク教授は述べている。

 つまり、そんな酷い児童買春をラムザイヤー教授は肯定している、許せないことだ、というのがソク教授(や「記事」を書いた側)の言いたいことなのである。

(中略)

 彼は児童買春を肯定してなどいない。実際にあったケースを分析しているだけだ。「慰安婦被害者」を愚弄もしていない。ただ一次資料に基づいて「性契約」の実態を明らかにしているだけだ。

2.歴史認識問題研究会 西岡 力

http://harc.tokyo/?p=1921

 また、声明は結論部分で、論文に対して「10歳の少女が性労働者として働くことに同意できると主張する論文」と決めつけた。

(中略)

 当時の日本で女性の人権が守られていなかったことは事実だ。現在の価値観では当然、10歳の少女と売春婦になる契約を結ぶこと自体倫理に反するだろう。論文はそのような価値判断をしているのではなく、明治期の日本でそのような少女の人権侵害があったという事実を書いているだけだ。

 学者が事実を論文に書くことが「倫理に反する」「残虐行為を正当化」だとする声明の批判は、事実記述と価値判断を混同した的外れの批判だ。

3.論文の主張

 では、実際には何と書かれているのでしょうか。論文は以下の場所から見ることができます。
https://news.yahoo.co.jp/byline/takeuchikan/20210225-00224442/

 論文の主張は、「殆どの女性たち(公娼、私娼、慰安婦)は自分たちがどのような仕事をすることになるのか、正確に理解したうえで、自分の意思で業者と契約交渉をした」というものです。

契約自体は、ゲーム理論の基本原則である「信頼できる約束」に従ったものであった。
(The contracts themselves followed basic game theoretic principles of credible commitments.)

と述べられてます。問題のおサキについては

おサキは、確かに長年海外で働いていたが、父からの抑圧や性奴隷の話ではなかった。
Osaki had indeed worked many years abroad, but hers was not a story either of paternal oppression or of sexual slavery.

と書かれていて、例外扱いはしていません。「児童買春を擁護している」というツッコミは妥当でしょう。

 サンダカン八番娼館によればおサキは明治30年頃の生まれ、始めて客を取らされたときの状況は次のようなものです。

 うちらが客ば取らされたとは、二、三年たって、うちが十三になった年じゃった。忘れもせん、ある日昼飯の済んだとき、太郎造どんがうちら三人に向こうて、「おまえら、今晩から、おフミらのごと客ば取れ」と言い渡したと。ツギヨさんもおハナさんも、「お客なんか取らん。なんぼ言うても取らん。」と言い張った。すると太郎造どんがな、みるみる恐しか鬼のごたる面になって、「客ば取らんで何のためにここまで来たっか?」と責められ立てたとじゃ。うちらは三人かたまって、口ばそろえて、「小まんかときは何の仕事と言わんで連れて来て、今になって客ば取れ言うて、親方の嘘つき!」と言い返したと。

----ばってん、親方はびくともせん。今度は捕えた鼠ばねぶる猫ごたる調子でな、「おまえらのからだにゃ、二千円もの銭がかかっとる。二千円返すなら客ば取らんでもよか。さあ、二千円の銭ば、今すぐ返せ、さあ返せ、返すことが出来んならば、おとなしゅう、今夜から客ば取れ」と言うとじゃ。一銭の銭も持たんうちらに、二千円の銭ば返せるわけがなかろうが! そっで、とうとううちらは負けてしもうて、嫌じゃ嫌じ思いながら、その晩から客ば取らされてしもうたと。

このすぐ後には生理の出血が一月止まらなかったが、それでも客を取らされた話も出てきます。

 ラムザイヤー教授を擁護しようかと考えている人は、一度論文を読むことをお勧めします。
翻訳サイトを使えばさほど難しいことではありません。(私は DeepL を使用した)



なお論文についての考察として以下の二つも参考になります。

ラムザイヤー教授の「従軍慰安婦」の論文の主張ってどんな内容なの?
https://note.com/horishinb/n/n496b4589af3b

ラムザイヤー論文の要約によると、高額な前払金は慰安婦側が常に優位な交渉をした証拠という主張らしくて、さすがに目を疑っている
https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20210309/1615299767

見果てぬ夢、核融合発電


先日(7/29) ITER の融合炉の組立が始まったとのニュースがあった。

NHK の報道によれば、ITERは2025年に運転を始めるまで2兆5000億円(日本負担分は2900億円)の費用が掛る。ちなみにこれは当初予定より5年遅れ、予算は3倍に膨れている。果たして核融合発電は実用化できるのであろうか。

 

1.核融合とは何か

  核融合とは軽い核種が融合して重い核種になることである。
  核融合反応には沢山の種類があるが、この名で最も達成条件の低いD-T反応核融合発電の目標である。D-T反応重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)が反応して
ヘリウムと中性子が発生する。この時発生するエネルギーの七割を中性子が担う。

  ちなみに太陽の核融合の大半は陽子-陽子連鎖反応とCNOサイクルなので、核融合発電は「地上の太陽」というより「制御された中性子爆弾」と言うべきだろう。

 

2.燃料は無尽蔵か?


  重水素はまあよいとしても、半減期12.32年のトリチウムは自然界に殆ど存在しない。人工的に作成する必要がある。ウィキペディアによれば、カナダ・オンタリオ州の重水炉では年間2.5kgを製造販売している。100MWの発電所には年間130kgのトリチウムが必要となる。
  トリチウムの製造には核融合炉の炉心にリチウム装着して回収することを予定しているが、消費した以上に回収することはできないだろう。結局のところ融合炉のためには分裂炉が必要となる。
  ちなみにグラムあたり300万円で燃料単価を計算すると1kWhあたり45円となり
現行のどの発電方式の発電単価より高くなる。核融合発電の実用化のためには現行の製造方式を改良して安価に大量に製造する必要がある。
  そして製造、運搬、運転の全てにおいて環境に放出しないようにする必要がある。さらに言えばトリチウム核兵器の材料であるため、核ジャックの危険にも備えなければならない。


3.核融合炉はクリーンか?


  クリーンな発電方式とよく言われるのだが、これがよくわからない。そもそも燃料のトリチウム放射性物質なのに何故クリーンと言えるのか。ガス状のトリチウムを封じ込めるのは困難であろう。

  またD-T反応で発生する中性子は炉を放射化する。最終的に融合炉は放射性廃棄物となる。中性子を浴び高熱に晒される炉壁や装置は定期的な交換が予定されているが、
はたして経済的に成り立つのだろうか。


4.核融合炉の安全性


  最後に安全性であるが、福島原発のような爆発はたしかに起きない。しかし全てのプラントは事故の可能性がありそれは核融合炉も例外ではない。
  事故の中で一番厄介なのは火災であろう。実際に発電を行なう場合冷却材は金属リチウムが想定される。金属リチウムは反応性の高いアルカリ金属で火事になっても水で消化できない。
  また磁気閉じ込め方式の場合、超伝導状態の喪失やディスラプション(プラズマが制御を失なう)事象が有り得る。その他も地震等の自然災害による損傷も考えられる。いずれの事故もトリチウムの大量放出に繋がる可能性があるのだ。

 

  1950年代の国際会議で10年以内の実用化を豪語して軽く半世紀を越えるのだが、
前世紀から指摘されている数々の問題点は一向に解決していない。
いまだ実現の可能性が見えないのが核融合発電の現状である。



核融合発電」で検索するとヨイショするページばかり引っ掛かるのだが、
批判的なページもそれなりにある。以下に紹介する。

https://dr-seton.hatenablog.com/entry/20110514/1305359304
https://dr-seton.hatenablog.com/entry/20110515/1305462221
https://honz.jp/articles/-/40327
https://cnic.jp/150
https://www.gasho.net/stop-iter/documents/q&a/q&a.htm
https://alter.gr.jp/magazine/detail.php?id=2530
https://www.env01.net/main_subjects/energy/contents/hankaku/hankaku_39.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/57/5/57_5_342/_pdf
http://masaniwa.web.fc2.com/D-50.pdf
https://koubeinoko.exblog.jp/22995878/
https://zassou322006.blog.fc2.com/blog-entry-855.html
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-11-17/01_05f.html

 

ヒトカップ湾

 78年前の今日、1941年11月26日は空母6隻を含む機動艦隊が
エトロフ島のヒトカップ湾からハワイに向けて出撃した日である。ちなみにハル・ノートが日本に届くのは翌27日である。

 ハル・ノートの前に日本の戦争機構は動き始めていたのである。 実は11月1日の「大本営政府連絡会議」で、11月中に交渉がまとまらなければ12月初頭に開戦と決定されていた。
ハル・ノートが提示されなかった場合でも戦争が始まったことは確実である。
 一応交渉がまとまれば機動艦隊は引き返すことになっていたが、それはアメリカが日本の要求を殆ど呑むという奇跡でもないかぎり、ありえないことであった。

 開戦前の日米交渉についてはこちらが参考になります。
http://yu77799.g1.xrea.com/worldwar2/nitibeikaisen/kaisen1.html

 

元号について

  最近まとまった量の書類を役所に提出した。 役所のWEBサイトからPDFやエクセルシートをダウンロードして書類を作成したのだが、令和に対応してないのがかなりあった。
 提出年月日が「平成」決め打ちだったり、エクセルシートは年月日の入力欄に西暦を入力すると、 印刷ページに元号で表記されるようになっているのだが、 「2019/8/31」は「平成31年8月31日」と表記される。
 役所の膨大なファイルには令和に対応してないのがまだまだ残っているのだろう。

 しかし21世紀になってもまだ不合理な元号にこだわるというのは本当にどうしようもないと20世紀生まれのおぢさんは思う。

コンストラクタル法則

五月の中旬に紀伊國屋書店よりメールで新刊の案内がきた。本の名前は

『流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則』
エイドリアン・ベジャン 著 柴田裕之 訳 木村繁男 解説

 

  この本は「物理法則の第一原理“コンストラクタル法則”」についての本だそうだ。コンストラクタル法則につては2013年に同じ著者による「流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則」がすでに出ている。ネットで検索すると好意的な評価が圧倒的に多い。「流れとかたち」のAmazone の内容紹介によれば、「分野を超えて衝撃を与える、革命的理論の誕生 ダーウィンドーキンス、グールド、プリゴジンらに異を唱える熱力学の鬼才が放つ、衝撃の書!」だそうである。


  コンストラクタル法則とはなにか?というと、「有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない」というものだそうだ。

 

「誰もが夢中になって読める熱力学の最新理論」、「万物のデザインを決める新たな物理法則」と言われているので、その理論の方程式を拝ませてもらいたいと思ったのだが、式が見つからない。熱力学の第一法則も第二法則も Wikipedia に式が載っているのだが、コンストラクタル法則の式は見つからない。

 

「Constructal law」で検索すると英語の Wikipedia には独立した項目はなく、

Adrian Bejanの項目の一節に解説があるが、やはり式はない。論文を見つけたのだが、

“For a finite-size flow system to persist in time (to live),
its configuration must evolve in such a way that provides
greater and greater access to the currents that flow
through it.”

という文章があるだけで、Constructal law を表す方程式はない。物理法則と言いながら、式がないのは理解に苦しむ。式なしでどうやって検証するのだろうか。

 

  論文には三角州と肺の比較写真が載っている。しかし河川の場合はむしろコンストラクタル法則の反証ではないだろうか。私の地元の石狩川は元々はうねうねと蛇行し洪水の度に三日月湖を作る川であった。今でこそスムーズに流れているが、これは長年の河川改修工事の結果である。蛇行は一旦始まるとどんどん進行する。川は「通過する流れを悪くなるように進化」するわけである。

  また三角州は流れを良くした結果だろうか。スムーズに流れるならば、三角州を作らずに一気に海に注ぎ込んだ方が良い筈である。しかし実際は河口で土砂が一気に堆積するために三角州ができる。つまり、堆積した土砂が流れを阻害するためにできる地形が三角州である。

 

一方、肺の場合、肺胞の表面積が大きい方がガス交換に都合が良いし、樹木の場合は
葉の表面積が大きい方が光合成に都合が良い。どちらも表面積が極大になるように、
淘汰圧が掛かるので形状の類似は必然といえる。

 

  ところで鰓呼吸の場合は吸水口と排水口は別になっている。また自動車やクーラーでも吸気口と排気口は別になっているが、肺呼吸では一緒である。このため吸気と排気を強制的に行う必要があり、通過する流れを良くするように進化したとは言い難い。


  私は「河川流域や、肺の気道、稲妻など、自然界に豊富に見られる樹状構造の類似性は偶然である」という、プリゴジンの主張に軍配を挙げる。

 

  おそらくこの本は科学書ではなくスピリチュアル系に分類すべきだろう。