コンストラクタル法則

五月の中旬に紀伊國屋書店よりメールで新刊の案内がきた。本の名前は

『流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則』
エイドリアン・ベジャン 著 柴田裕之 訳 木村繁男 解説

 

  この本は「物理法則の第一原理“コンストラクタル法則”」についての本だそうだ。コンストラクタル法則につては2013年に同じ著者による「流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則」がすでに出ている。ネットで検索すると好意的な評価が圧倒的に多い。「流れとかたち」のAmazone の内容紹介によれば、「分野を超えて衝撃を与える、革命的理論の誕生 ダーウィンドーキンス、グールド、プリゴジンらに異を唱える熱力学の鬼才が放つ、衝撃の書!」だそうである。


  コンストラクタル法則とはなにか?というと、「有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない」というものだそうだ。

 

「誰もが夢中になって読める熱力学の最新理論」、「万物のデザインを決める新たな物理法則」と言われているので、その理論の方程式を拝ませてもらいたいと思ったのだが、式が見つからない。熱力学の第一法則も第二法則も Wikipedia に式が載っているのだが、コンストラクタル法則の式は見つからない。

 

「Constructal law」で検索すると英語の Wikipedia には独立した項目はなく、

Adrian Bejanの項目の一節に解説があるが、やはり式はない。論文を見つけたのだが、

“For a finite-size flow system to persist in time (to live),
its configuration must evolve in such a way that provides
greater and greater access to the currents that flow
through it.”

という文章があるだけで、Constructal law を表す方程式はない。物理法則と言いながら、式がないのは理解に苦しむ。式なしでどうやって検証するのだろうか。

 

  論文には三角州と肺の比較写真が載っている。しかし河川の場合はむしろコンストラクタル法則の反証ではないだろうか。私の地元の石狩川は元々はうねうねと蛇行し洪水の度に三日月湖を作る川であった。今でこそスムーズに流れているが、これは長年の河川改修工事の結果である。蛇行は一旦始まるとどんどん進行する。川は「通過する流れを悪くなるように進化」するわけである。

  また三角州は流れを良くした結果だろうか。スムーズに流れるならば、三角州を作らずに一気に海に注ぎ込んだ方が良い筈である。しかし実際は河口で土砂が一気に堆積するために三角州ができる。つまり、堆積した土砂が流れを阻害するためにできる地形が三角州である。

 

一方、肺の場合、肺胞の表面積が大きい方がガス交換に都合が良いし、樹木の場合は
葉の表面積が大きい方が光合成に都合が良い。どちらも表面積が極大になるように、
淘汰圧が掛かるので形状の類似は必然といえる。

 

  ところで鰓呼吸の場合は吸水口と排水口は別になっている。また自動車やクーラーでも吸気口と排気口は別になっているが、肺呼吸では一緒である。このため吸気と排気を強制的に行う必要があり、通過する流れを良くするように進化したとは言い難い。


  私は「河川流域や、肺の気道、稲妻など、自然界に豊富に見られる樹状構造の類似性は偶然である」という、プリゴジンの主張に軍配を挙げる。

 

  おそらくこの本は科学書ではなくスピリチュアル系に分類すべきだろう。